計画概要と想定される影響について
来年度に、池尻小学校の校庭が半分になるの?
2021年(令和3年)6月4日に(オンライン方式では7日に)「旧池尻中学校跡地活用に関する説明会」が行われましたが、皆様ご参加されましたでしょうか。その後、世田谷区経済産業部が作成・配布した資料によると、2021年(令和3年)9月時点では、以下のスケジュールで、旧池尻中跡地活用計画が検討されておりました。
2021年(令和3年)9月 地域住民説明会
2021年(令和3年)11月 区民生活常任委員会(公募要件及び選定委員会の設置について)
2021年(令和3年)11月 地域住民説明会
2021年(令和3年)12月 運営事業者公募
2022年(令和4年)3月 運営事業者決定
2022年(令和4年)4月 区民生活常任委員会
2022年(令和4年)05月 世田谷区とものづくり学校との契約終了
2022年(令和4年)06月 耐震補強工事
2023年(令和5年)04月 新規運営事業者契約、かもめ保育園仮園舎工事開始
その後、2021年11月に小学校から保護者宛て文書にて説明があったとおり、当初11月に予定されていた「事業者公募の要件の報告」が延期となり、跡地活用方法・産業活性化拠点のあり方の2点について再検討の上、令和3年度中(2022年3月)に報告がなされることになっているようです。
当初の想定からスケジュールは後ろ倒しになっているものの、この計画自体の見直しがなされない限り、来年度には、池尻小学校の校庭のうち、つっちー側の旧池尻中学校跡地部分に関しては経済産業部の管轄となり、池尻小学校としては利用できなくなる可能性があります。
校庭が半分になると、どんな影響があるの?
現在、想定されているだけで以下のような影響が発生する見込みです。
- 芝生の廃止(土の校庭に戻す必要性)
芝生を維持していく為には、必ず年に数回「養生期間=利用しない期間」を設ける必要があり、現在では、その期間は土側の校庭を利用して授業などが行われています。土側が使えなくなった場合には、この養生期間を設けることができず(学校の授業や行事の運用に支障が出てしまうため)、芝生化していた部分に関しては、やむなく土に戻すことが必要になります。
池尻小学校児童にとって、走り回って遊べるような芝生の存在は貴重な存在であり、転倒時の怪我の心配が少なくのびのびと安心して運動に取り組める場所であっただけでなく、夏場の校庭の表面温度を抑えられ、乾燥してもほこりが立たない、などの恩恵を受けていました。青空給食など、芝生があることを生かした特色のある教育も行なわれていました。また、池尻小学校の児童だけではなく、地域住民にとっても身近に緑化空間があることで心理的な安らぎをもたらしていた、という利点もあったかと思います。このような数々の利点は、これまで東京都が公的に補助を出し、公立小学校の施設整備として芝生化が進められてきた背景でもあります。
今回の経済産業部の計画が実現するというは、こちらの目的については諦める、という決定と同義となります。
- 池尻小学校児童の学習環境、学校行事などへの影響
広い校庭、芝生、などの、池尻小学校のアイデンティティとも言える特色が失われる、というだけではなく、学習環境に関して、いくつかの物理的な影響があります。それは、旧池尻中学校跡地側のグラウンドにある倉庫などを、池尻小学校施設側へ移動させる必要性が発生するためです。
現在、池尻小学校は「医療救護所指定避難所」となっており、災害時などに使用する備品、備蓄を抱えています。また、地域のスポーツ少年団が使用する用具や石灰などの置き場も、多くが旧池尻中学校跡地側に倉庫や置き場が設置されております。
芝側の校庭には、これ以上施設を建設する場所が存在しないため、校舎内、あるいは体育館内に、それらの用具や備品を保管するスペースを確保する必要性が生まれます。
その影響により、現在、展覧会や池尻フェスティバルなどの学校行事、PTA主催のわくわくランドなど数多くのイベントは、体育館や校舎内をうまく活用することで成り立っていたり、一見余分なスペースに見える体育館2階の更衣室前スペースも、児童が着替えてプールに向かう際の整列場所に利用されるなど、限られた施設を有効に活用している部分が、現在の様には利用できなくなります。
- 池尻小学校児童の安全性への影響
サウンディング調査結果では、旧池尻中学校側の校庭(つっちー部分)を駐車場にする、校庭を使って定期的にイベントを行う、などの案が出されています。
仮に駐車場になった場合には、児童の通学路となっている歩道を横切る形で車が往来する状況が生まれることになり、児童の安全性が著しく損なわれる危険性があります。
また、現在の交通量でも、例えば「池尻2-3 南東交差点 」(池尻保育園横のT字路)は「登校時間帯は進入禁止だが、標識が目立たず、 入って来る車が多い 」との点検実施結果が、世田谷区から公表されている箇所(令和元年度通学路合同点検実施結果 参照)です。 この様な状況が改善されたとの報告がないにもかかわらず、更に交通量を増やす試みが通学路付近で進められることは、児童の安全性に悪影響があることが懸念されます。
- 地域のスポーツ少年団の活動場所減少、最悪の場合には活動の停止
池尻小学校は、周辺の公園や小学校に十分なスペースがないなかで、地域のスポーツ少年団にとっては貴重な練習場所、という役割を担っております。池尻小学校児童で地域のスポーツ少年団に入っている方々も多くいらっしゃいますので、その重要性についてはご認識いただいているかと思います。
校庭の面積が半分になった場合、それらの団体の活動が大きく制約を受けるだけではなく、最悪の場合には活動停止に追い込まれる可能性があります。活動停止は大げさな話に聞こえるかも知れませんが、池尻小学校周辺は公園での球技は禁止されており、また区のスポーツ施設はどこも予約で一杯、現在の区民の施設利用者が予約が取れなくなるなどの影響がある中では、活動を継続するための代替地を探すことは不可能に近い状態です。
練習日の大幅な減少により、現在所属している児童が退団してしまったり、参加学年を絞るなどの規模縮小に追い込まれ、結果的に活動が立ち行かなくなる可能性は十分にある状態と言えます。
- 地域への影響
直接、間接的に、以下のような影響があります。
医療救護所指定避難所としての機能低下
校庭が広いことにより可能だったドクターヘリ発着などの医療対応ができなくなります。また、第2体育館は、これまで区の管理であったため、緊急時には負傷者や患者を収容する臨時医療施設への転用が想定されていたが、そのような運用が不可能となります。頻繁なイベント実施による住環境への影響
施設を利用した頻繁なイベント開催により、自動車の往来の増加、他地域からの人出の増加、イベントの音響などによる騒音問題などで、住環境に影響が発生する可能性があります。地域の子どもたちの健全育成環境の減少
地域のスポーツ少年団には、池尻小学校以外の学校に通う児童が所属しています。それらの団体の活動が制限されることにより、地域の子どもたちの健全育成環境が減少します。地域住民のスポーツ施設利用難易度の上昇
これまで校庭を利用していたスポーツ少年団が、代替地として区から地域スポーツ施設の利用を指示されたり、単純に利用回数が増加することにより、一般区民の予約が、現状よりも困難になります。具体的には、けやきネットを通じて一般開放されていた施設の開放取りやめなどが発生します。
校庭を半分にして、何をしようとしてるの?
簡単に纏めますと、以下のような計画となっております。
これまで、旧池尻中学校跡地の「校舎」を「ものづくり学校」として運営会社に運営を委託し、実際の施設利用事業者に貸し出す運営をしてきたものを、「校舎」だけではなく「校舎」「体育館」「校庭」を三位一体として貸し出し、同様の運営を行うかたちに変更する
具体的な利用計画は現時点では存在せず、民間業者からの「サウンディング型市場調査」にて、具体的な運営事業者、運営内容は決定されていく予定ではあるが、旧池尻中学校跡地の管轄を教育委員会から経済産業部に移管する手続きや、校庭の利用範囲を制限する動きは進めていく方針
7月までに行われたサウンディング調査の内容は9月に纏められ、計画の資料などと併せて下記の区のホームページに掲載されております。内容の詳細については、そちらをご確認ください。
https://www.city.setagaya.lg.jp/mokuji/shigoto/005/d00191540.html
区の中ではどのような議論が行われているの?
「区民生活常任委員会」や「区議会」などで、この計画についての質疑が行われています。実際に会議を傍聴した際の質疑や、議事録サイトから、趣旨としては以下のような指摘がされています。逆に、議員の方々からの賛同意見はいまのところ見当たりません。
議事録は、下記のページから検索で探すことが可能です。
http://kugi.city.setagaya.tokyo.jp/voices/
※ 「旧池尻中学校」の検索キーワードで探すことができる9/15,9/16,9/17,10/19の会議に多く質疑があります。
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【主な質問、指摘の趣旨】
2021年2月に区から示された基本コンセプト、またその後に実施されたサウンディング調査の結果の報告においても、具体性に乏しく、方向性が見えてこない
二億円以上もの耐震補強工事を実施した後に、本当に施設の有効活用ができるのか
このまま事業を進めることについては及第点のレベルに達していない
収益性、公益性の観点から制度設計をし、区民に対して明確に事業計画を示すべき
議会との合意形成に努めることなく事業を進めようとしている区の姿勢に疑念を抱いている
KPIを設定し評価委員会を置くとのことだが、費用構造、サウンディング調査を踏まえた事業内容は評価しないのか。また、評価委員会には学識経験者らがメンバーで、年一回の開催となるようだが、本事業が地域との交流や子どもの教育の場を基本コンセプトとしているならば、一年に一遍会う有識者だけでなく、地元自治会・町会の方や、隣接地で関わりの深い池尻小PTAなども評価委員に入れるべきでは
経産部が発注者として受託側に何を課して、何を成果物として検証、評価しますということが明確にない。評価委員会を開いたとしても曖昧な議論しかできないし、幾らでも言い逃れされるのでは。
学校教育、子どもの運動の場として活用している場所を取り上げて民間活用する必要性があるのか。代替地を用意するとして、子どもを移動させるリスクは生じ、池尻小の校庭を芝から土に戻して使うとなれば、みどり33達成の観点からはマイナスとなる。最低限、現在の授業やクラブ活動の時間枠を保った上で、隙間時間を民間活用に回すのが妥当と考える
この事業を展開する上で、校舎、校庭、体育館を使うという前提条件になっているが、その判断に至った理由がわからない。民間事業者から御意見がありましたというのは、区から出したコンセプトに従ってサウンディング調査をやっているのであれば、ある程度なぞらえて提案してくるのは当たり前であり、そういった制約条件は取っ払った状態で、メリット、デメリットいろいろ比較検討した結果、やっぱり校庭、校舎、体育館を使ったほうがこの事業は成功確度が上がるという判断をされているのか。あまり深くそこまで考えて提案されているような中身には思えない。このままこれをどうぞやってくださいという気にはとてもなれない。
ものづくり学校の検証結果が生かされていない。民間事業者に公有の土地建物を活用させることの問題点を浮き彫りにした事案に対し、次は校舎に校庭、体育館を加えた拡大運営事業を企画していることに驚く
第2体育館は、けやきネットでの利用率が高い上、臨時医療施設などへの転用もできるものだが、一度民間に貸し出すと、区のマネジメントが容易に効かなくなることは、ものづくり学校の16年間を見ても明らか。体育館については、現在の利用度の高さから見ても、緊急時の避難所や医療用転用の可能性を鑑みても、区の運営下に置くのが適切と考える。
指摘されている「ものづくり学校の検証結果」って何?
「区民生活常任委員会」や「区議会」などでの質疑で「ものづくり学校」の運営や、検証結果について指摘されている趣旨は以下のとおりです。
議事録は、下記のページなら検索で探すことが可能です。
http://kugi.city.setagaya.tokyo.jp/voices/
※ 「旧池尻中学校」の検索キーワードで探すことができる9/1の会議に多く質疑があります。
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本来目的である区内創業者支援は、16年間で33事業者(年間2事業者未満)で成功したとは言い難い状況
全区的にどのように世田谷の産業に貢献してきたかが、全然何の検証もされていない。仮に最初の段階でコミュニティーに重きを置いたとすれば、(それが正しかったのかどうかということもまずありますが)その目的を果たしているかも検証していない
運営事業者が取材誘致に尽力したおかげで、ものづくり学校の知名度は急上昇したが、その名称は、運営事業者が商標登録し、区が自由に使えなくなっている
同事業者は、三条市と隠岐の島にもものづくり学校を展開し、隠岐の島に関しては、運営事業者の設定する賃貸料が高過ぎると町が判断し、契約解除して、2017年より自治体直営に変更している(つまり、問題のある業者に業務を委託していたと考えられることと、それに対するチェックを怠ってきたのではないか)
KPIを設定したけれども、ちゃんと評価もされないまま数年間放置されていた
社会的価値がありそうな事業を、売上げ、経費とんとんでやって、所場代で百万円収めて、ある程度の企業規模の会社からしたら、世田谷区からこういう委託を受けて、これだけ社会的価値がありそうな事業をやっていますというただのプロモーションコストでは。
事業者が決まりました、月に百万円を下さい、あとはよろしくお願いします、では困る
ものづくり学校の反省点として、あまり成果が出ていなかった、こういう点が反省点としてありますとあるが、区はなぜ途中でそれを是正しなかったのかという点に触れられていない
「ものづくり学校」と「今回の計画」は同じ内容なの?
計画の目的は異なるが、事業・収益構造は類似
今回の計画は未決定の部分が多く、現時点で全容はわかりませんし、これから変化するかも知れませんが、既に明示されている方針や、質疑の中で指摘されている内容を踏まえると、現時点では以下の通りの内容となっております。
【目的】
「ものづくり学校」は、「区内創業者支援」を目的とし、会社を立ち上げたばかりの弱者などの起業を支援する、という目的の為に、地域の相場よりもはるかに安価な賃料で区が運営を外部に委託して行っていた事業です。
今回の計画趣旨は、創業者支援ではありません。その様な目的ではないにも関わらず(従来の「校舎」に加え「体育館」と「校庭」を含んでいることを考慮すると)更に安価な賃料で、一般企業に賃貸する計画である点が大きな相違点です。
【事業構造】
世田谷区(経済産業部)が運営事業者を選定し、運営を任せる、という事業形態は同一です。
こちらが、質疑の中で「区がきちんと運営に関与できておらず問題があった」と言われている点です。
【収益性】
区の収益性という観点で見れば、どちらの計画も変化はありません。運営事業者の収益性という観点で見れば、収益性は拡大する点が相違点となります。(※ 実際には、運営事業者の収入は経費と相殺され、収益は無いようなかたちになっておりますが、施設の維持管理責任は世田谷区にあることを考慮すれば、経費は間接的に収益につながる部分に投資される構造になっていることから、収益性の拡大という表現を使わせていただいております)
ものづくり学校
世田谷区:運営事業者は「校舎」を賃料100万/月程度で運営を委託
運営事業者:「校舎」を利用し、年間で億を超える収入
今回の計画
世田谷区:「校舎」に加えて「体育館」「校庭」を使わせるが、賃料は据え置き100万/月程度で運営を委託
運営事業者:「校舎」「体育館」「校庭」を利用し、年間で億を超える収入(※ ここが拡大可能)
【計画性・実効性】
「ものづくり学校」では、以下の点がうまくできなかった、という趣旨の振り返り結果になっていました。
計画の目的定義
定義した目的の達成度を計測する指標の設定
設定した指標の定期的なモニタリング
モニタリングした結果を元にした是正措置
今回の計画に対して、同じ課題が発生するのではないか、という指摘が多く入っております。